大原幽学関係歴史資料の紹介

資料の経歴
大原幽学の性学活動を引き継いだ財団法人八石性理学会では、明治41年の設立以来、大原幽学の遺跡を管理・所有し、資料の保存に努めてきた。昭和27年に、長部にある旧宅、墓地、耕地割が国指定の史跡となり、昭和32年には幽学没後百年祭の記念事業として、大原幽学遺品保存館がつくられ、一般にも資料が公開されるようになった。

しかし、これらの膨大な資料は昭和61年に八石性理学会から干潟町に寄贈され教育委員会で管理を行うようになる。昭和63年および平成元年には本格的な資料調査が行われ、これを経て平成3年に大原幽学関係資料407点が重要文化財の指定を受ける。指定されたのをきっかけに、新しく大原幽学記念館が建設され平成8年3月15日に開館、資料の保存と公開を行っている。

概要
大原幽学関係資料は文書類、書籍類、書画類、生活用品の大きく四つに分類される。現存する幽学個人及び性学関連の資料は、おそらく八石性理学会が保存してきたものが量、質ともにその中心となるものである。このうち重要文化財指定をうけたものは、幽学の自筆もの、幽学の生前、つまり自殺した安政5年(1858)3月8日までに成立したと認められたもの、計407点である。

文書類は成立当時の形でないものが数多く見られる。現在の状態から当時の形はある程度推測できるが、原型のままの資料は非常に少ない。保存上の理由からか冊子の形態のものが巻子に仕立てられていたり、内容に関係なく一つにまとめられたりしているものもある。明治5年(1872)に幽学関係の資料を巻子に仕立てたという記録が残っており、こうした処置が何度か行われたようである。文化庁の作成した「大原幽学関係資料目録」によると指定資料の内訳は以下のようになっている。

  一、著述稿本類 25点
      冊子5冊 巻子20巻

  二、性学教導并仕法関係文書、記録類 279点
      冊子168冊 折本1帖 巻子19巻 掛幅25幅 
      堅紙・切紙・読紙15通 絵図類(読紙)1鋪 短冊50枚

  三、日記 17点  冊子9冊 巻子8巻

  四、書状 54点  冊子3冊 巻子48巻 掛幅1幅 堅紙・切紙・読紙2通 32点

  五、遺品類 32点

各資料の内容
一、著述稿本類
微味幽玄考 性学の思想が書かれた『微味幽玄考』は幽学の主著である。ただし自筆のもので完全に残ってるものはなく、すべて下書きのものである。また『微味幽玄考』の前進である『性学微味』、その他の草稿の断簡も巻子に収められている。冊子で残っているものは、自筆ではなく門人が書き写したものである。

二、性学教導并仕法関係文書、記録類
易  占 幽学の自筆による易学・占関係の資料が収められている。新井流易学を学んだ幽学は、皆伝書の類を残している。『新井流易学皆伝秘書』や『易学記』などのほかにも『諸文書張込帳』といったかたちで何種類かの伝書、易占関係の資料がまとめられているものもある。
規  矩 規矩とは幽学が道友に与えた性学の規範・目標が書かれた書・短文のことである。幽学自身のことば、また中国の古典である易経・孝経・大学・中庸などからの引用もある。『三幅対』は掛軸三本が一対になったもので、会合でかけられ使用されることもあった。『規式解』は年中行事の解説である。
道  友 幽学は門人たちのことを「道友」(どうゆう)とよんだ。ここには性学の門人名簿が収められている。幽学の自筆のものはない。この『門人名前取調帳』は裁判のときに奉行所に提出されたものの控えである。
神  文 神文は道友が入門のさいに幽学に提出する誓約書のことである。神文には決まった書式があり、もともとは一通ずつ独立したものだが、現在は冊子にまとめられている。生前に出されたもの18冊、636人分が指定を受けている。
教  導 性学の方法に関する文書が収められている。『連中誓約之事』は前半に門人たちの誓いのことばと署名がつづられ、これに対する幽学の励ましの言葉が後半に続く。『教道筋奉申上候書付』は関東取締出役の取調べの際に提出されたもので、幽学の指導方法が述べられている。「景物」の添書の写しも残されている。
子供仕込 幽学は子どもの教育を重視した。生前に行われた元服についての資料が中心である。
先祖株組合 長部村における先祖株組合関係の文書が収められている。『為取替一札』、『請取一札』は組合発足当初の契約書類である。『先祖株総締高取調帳』は裁判の取調べの際つくられたものである。
丹  精 門人たちによる労働奉仕のことを丹精という。労働にあたった人数の控えが記録されている。
普  請 土木・建築関係の文書が収められている。『会合所寄進人足控』、『改心楼材木控』など改心楼建設の際の資材・人足関連の記録が主なものである。
 叺  幽学の生活費に道友から差し出された叺米の控えである。
入  用 財政・経理・資産についての文書が収められている。「一件」とつくものは裁判に関係のあるもので、ここに収められた生前のものはすべて裁判関係の諸費用の記録である。『一件中諸入用荒増』『一件入用荒増』は裁判の経費や江戸滞在費などの費用についてのものである。
高松家 高松家とは裁判中に幽学の兄と名乗り、身元引請人であった高松彦七郎家を指し、かつてそこで所蔵されていたものが八石におさめれた。裁判に関係したものが主な内容となっている。また幽学と門人の討論集である『義論集』全3冊、幽学の言動を記録した『聞書集』全4冊が高松家で所蔵されていたため、ここに含まれている。
その他 前述の項目に該当しないものが収められている。幽学による治療・製薬の記録である『配剤録』、共同購入の際の『注文書』が目につく。ほかにも刀剣についての資料、短冊などがある。

三、日記
 日 記  『口まめ草』、『道の記』、『諸君子句集』『陸奥つれづれ草』、表題がつけられていない『(無題日記)』、『種々日記』の6点が幽学が定住する以前の記録である。それ以外の日記は定住後に書かれたものである。『在府日記』全5冊は裁判中の江戸滞在していた門人の日記である。

四、書状
 書 状  主に遠藤良左衛門、本多元俊、高松彦七郎関係の書簡が中心となっている。多くが書状をいくつか張り合わせて巻子の状態になっている。幽学の遺書である『遺書下書』には特別な装丁が施されている。

五、遺品類
 遺品類 文書以外の資料で幽学が使用していたと思われるものが収められている。衣類、眼鏡、印章をはじめ、算木、薬草切、薬研などがある。自殺時に使用された短刀はよく知られている。
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大原幽学記念館 〒289-0502 千葉県旭市長部345-2 Tel0479-68-4933
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